グローバルケーススタディ:「和食」ビジネスの商機と成長ポテンシャル

ECコラム


こんにちは。コンサルタントの多良です。
世界で和食が人気というニュースはよく目にしますが、実際のところどうなのでしょうか?日本貿易機構(JETRO)最新の調査*によると、この20年で世界の和食レストラン数はなんと約4倍にも増えているんだとか。世界の消費者たちが和食のどんなところを魅力に感じているのか?どんなビジネスチャンスがあるのか?この記事では、和食のグローバル市場での商機と成長ポテンシャルについてご紹介していきます。

グローバル市場における和食の現状

前述の通り、外食産業における和食はもはや日常に普及しているといっても過言ではないほど。特に中国、台湾、韓国、タイなどのアジア圏をはじめアメリカ、ヨーロッパでも年々展開店舗は増加傾向にあります*。近年では、中東で1000店舗、アフリカでも500店舗を越える和食レストランが登場しているそうです。気候や食文化の違いが顕著なだけに、驚くべき成長ですね。

どんなメニューが好まれているのか?いわゆる典型的な寿司や天ぷらなど、日本人にとっても”ご馳走系” と言えるメニューは人気は依然根強いものの、近年はカジュアルメニュー人気が顕著です。つまり、カレー、ラーメン、牛丼、うどんなど、日本人も日常的に口にするお手軽メニューが多いですね。アニメなどで目にする機会が多いことも一因ではとも言われています。また食事だけでなく、日本酒や日本茶の人気も比例して高まっています*。

モノを売るだけではもったいない、和食ビジネスの商機

グローバル市場における和食ビジネスの商機は多岐にわたりますが、特に以下の分野での成長が見込まれています。

  1. レストラン事業: 高級からファストフードまで多種多様。特に、地域の食材を使った新しい形の和食レストランが話題を集めています。
  2. 料理教室: 「作る楽しさ・綺麗な盛り付け」も和食の魅力。専門的なスキルを身につけることを求める消費者も多く、体験価値が高いことから、和食そのものへのロイヤルティが高まります。
  3. オンライン販売: 和食に欠かせない食材や調味料、例えばわさび、しょうゆ、みそなどは、オンライン販売でも高い需要があります。海外ではなかなか店頭ですぐに手に入らないからこそ、戦略的にオンライン販路を確保しておきたいところです。すぐに輸出が難しければ、越境EC販売も検討の価値ありです。
  4. ニッチ市場:ビーガン和食や地域限定食材、季節限定メニューなど、多くのニッチな市場も存在します。ある事例では、海外では受け入れられないと考えられていた乾燥椎茸が、ビーガン食層に刺さると海外バイヤーたちの目に留まり、一躍販路を拡充したというお話も。

特にマーケティング戦略として競合優位性を高めるには、4.のニッチ市場への展開は今後より重要性を増すことが予測されます。売り込みたい商材によってどんなアプローチが可能か、様々な角度から検討することが鍵です。

マーケティング戦略のポイント

認知が高まっているとはいえ、多くの競合も市場に進出する中で成功するためには、より精緻なマーケティング戦略が不可欠です。特に重視すべき3つのポイントは:

  1. ブランディング: 和食は単なる食事以上の体験価値があるものとして認知されています。その文化的な背景やインサイトを深く理解した上で、消費者の求める和食像と、提供側が守りたい和食像を兼ねるブランディングを実現することが大切です。「本物の味」として消費者に感動を与えながらも、和食の「あるべき姿」に固執しすぎて機会損出にならないよう、バランスを取りながら戦略を考えていきましょう。
  2. デジタルマーケティング: 和食の美しいビジュアルや、味、ヘルシーさなどに代表されるメッセージは、SNSでも非常に共有しやすい内容です。特定の興味関心やニッチ市場に特化したインフルエンサーマーケティングも効果的でしょう。
  3. 越境EC: 物流の発展と共に、新鮮な食材や和食特有の調理器具も、海外で比較的容易に販売できるようになりました。今後さらに新しい市場開拓の可能性があります。

ケーススタディ:デファクトスタンダードになり得た成功事例の共通点とは?

株式会社 力の源ホールディングス 一風堂

言わずもがなの人気店、博多ラーメンの一風堂は、まさに和食ブランディング戦略の成功事例としての代表格です。元々1985年の創業時、「女性でも一人で入れる綺麗でスタイリッシュなラーメン店」としてオープンした創業コンセプトは変えず、美味しくてかっこいいラーメン として、米国の大都市やアジア圏で不動の地位を築きました。

興味深いことに、ニューヨークの一風堂では、現地顧客が日本国内の顧客層と酷似しているそう(収入傾向、男女比率など)。単なる日本から来たラーメン店 ではなく、「一風堂=スタイリッシュで美味しいラーメン」というイメージから広まることで、日本のラーメンといえば一風堂!と言わしめるまでになったという点でも、ブランドを一からローカル市場に根差した成功事例ですね。

株式会社壱番屋 カレーハウスCoCo壱番屋

「ココイチ」の愛称で親しまれるカレーチェーン最大手の「CoCo壱番屋」がタイ、中国、アメリカなど海外にも170店以上展開(2019年現在)していることをご存知でしょうか。国内同様、典型的な「日本のカレーライス」を提供しており、日本のカレーに馴染みのない外国人にも受け入れられているそうです。

現在社長を勤める葛原守氏は、2004年の中国進出の立役者。「日本のカレーは文化」と、現地の好みや傾向などに寄せることなく、ココイチのカレーをそのまま持ち込んだそうです。
結果、現地の人にとって見慣れない日本のカレーはなかなか広まらず、苦しい経営状況が続いたという時期も。その後の戦略シフトで、現地の人が誘いあって来たくなるような、おしゃれでスタイリッシュな店舗イメージに変えたことで女性客を中心に徐々に受け入れられ、店舗数を増やしていったのだそうです。

2つの事例に共通することは、いわゆるブランドの真髄とも言える味やストーリーは変えずとも、現地の人が抵抗感なく受け入れられるようなイメージ戦略に成功したということ、また、店舗での体験価値があったこと。そして、デファクトスタンダード(De Facto Standard)と言わしめるほど成長しています。

「これが正しい和食だ!」と無理に受け入れさせようとしても、認知も習慣もない海外ですぐに浸透することはまずありませんよね。「外国人だからこれが喜ばれるだろう」と早合点し、安易な海外進出をして大失敗に至った事例も多々あります。

ただし、これは何も外食産業だけに限ったことではありません。家庭で消費するモノであっても、例えば初めて触れるのが誰と、どこで、どんな時だったか?によって、自ずと商品に対するイメージにも影響を及ぼします。
現地の人の習慣や行動をよく観察し、体験価値のある場とセットで、商品のマーケティング戦略を熟考することで、新たなデファクトスタンダードを狙えるかもしれません。

参考:
*JETRO:全米の日本食レストランは過去12年で1.6倍の2万3,000軒に、ジェトロの動向調査
*農林水産省:海外における日本食レストランの数
*国税庁 :財務省貿易統計(令和3年度 )
*日本茶輸出促進協議会:2023年7月期日本茶輸出状況
*ITmedia:ニューヨーク店は成功……そして世界戦略の成算は? 「博多 一風堂」河原成美物語(後編)
*NIKKEI リスキリング「日本カレーは文化」 海外へ味も働き方もココイチ流

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