コミュニティ活性化の5事例 – 実例で見るCSA

以前の記事では、イーライフが大切にしている根幹概念のひとつである「CSA」(Creator、Supporter、Audienceの3者の頭文字をつなげたイーライフの造語)について説明しました。今回はいわばその実践編として、弊社担当コンサルタントの多良 麻子が、弊社がお手伝いさせていただいている企業コミュニティの実例を挙げて、活性化の工夫を紹介します。

イーライフが現在お手伝いさせていただいている企業コミュニティは、大小合わせて約50件あります。しかし、ひとくちにコミュニティと言っても、クライアント企業が抱えている課題はそれぞれであり、それに応じてコミュニティのあるべき姿も変わってきますコミュニティは通常、弊社のコンサルタントとクライアント企業の担当者の二人三脚で運営しますが、実際は試行錯誤の連続です。「これだけやっておけば、コミュニティはうまくいく」と言えるような解は存在しません。

ただし、いくつかの押さえておくべきポイントはあるので、ご紹介したいと思います。

ーA社のケース:  ユーザー同士のQ&Aでは1投稿あたり約40件の回答! 運営する企業側のクリエイターやサポーターと「顔の見える関係」を築くための本気の取り組みで、社長さえもコンテンツ化。

最初にご紹介するのは、食品加工大手メーカーA社の会員制コミュニティです。A社は缶詰・冷凍食品・レトルトなど幅広い商品を展開しています。こうした商品の認知を向上し、ロイヤリティの高いファンとの関係を築くことを目的に、2015年に立ち上げられました。主なコンテンツに「Q&A」 「レシピコンテンツ」 「フォトレポート」などがあります。食にまつわる疑問・質問をユーザー同士で回答しあう「Q&A」では、1投稿あたり約40件の回答がつきます。また、設定されたテーマに沿ってA社製品を使ったレシピを投稿する「コミュニティレシピ」のレシピ開発モニターにも、毎回数百件ほどの応募があるなど、コミュニティは非常に活気づいています。

コミュニティの活性化には、ひとつひとつの施策・企画が重要なのはもちろんですが、運営する企業側がクリエイターやサポーターと「顔の見える関係」を築けるかどうかがカギになります。時には事務局が率先して投稿に反応するなどして盛り上げる必要もあります。A社では昨年、新型コロナウイルス感染症の影響でスケジュールに空きができたことを逆手に取り、社長が自ら「顔出し」してコンテンツ作成に協力。社長への質問をユーザーから募集し、直撃インタビューの模様をドキュメンタリー風の映像コンテンツとして配信したところ、大きな反響がありました。

社員の「顔出し」は、その大切さを理解していても、さまざまな理由で実践できていない企業が多いもの。A社のコミュニティが活気づいているのは、社長以下、会社ぐるみで本気で取り組んでいることが大きな要因と言えるでしょう。

ーB社のケース: 主力商品の苗の無料配布により年間を通したコミュニケーションを実現。積極的にパートナーとして活動してくれるコミュニティの性質に照らし、時に大胆、時に慎重に施策を展開。

国内最大手の野菜加工メーカーB社の会員制コミュニティがスタートしたのも2015年。先立って行われた調査により、B社の商品は、上位2.5%の顧客による購入が売上の30%を占める構造にあることがわかっていました。こうしたロイヤリティの高いファンを増やし、継続的につながり続けるために立ち上げられたのがB社のコミュニティです。ほかの企業コミュニティと比べてB社のコミュニティに特徴的なのは、コミュニティの中にさらに「野菜の苗を育てている人だけが集まるコミュニティ」を設けていること。B社のコミュニティでは毎月3、4月に、主力商品の原材料である特定品種の野菜を数千名に無料配布しているのですが、その苗を栽培している人たちが、ここで大いに盛り上がっているのです。この無料配布は当初「苗を配ることで自社のことを少しでも好きになってくれたら」といった気持ちで始めたキャンペーンでしたが、運営側の想定を超えた反響を呼びました。さらにその後の調査によると、苗を栽培している会員はほかの会員と比べてNPS(ネットプロモータースコア)が高く、B社の商品をより周りに勧めてくれるし、アンケートなどへの協力にも積極的であることがわかっています。

このように、施策のひとつひとつは必ずしも成功の確信を持って打たれているわけではありません。ある種実験的にいろいろと試す必要があるということです。ですが、一方でひとつの施策が引き金となってコミュニティ内にネガティブな反応が広がってしまうこともありえるので、慎重になる必要もあります。B社のような大きな会社となると、ほかの部署から「こういうキャンペーンをやってほしい」というリクエストがくることもあります。しかし、たとえばインスタグラムのアカウントとの連携が必須のキャンペーンは、テクノロジーに明るくない年配の会員からは、ネガティブな反応が返ってくることも予想されるわけです。B社のコミュニティのゴールは「B社の商品が大好きだから買っているし、人にも勧めたい」という人を増やすこと。施策を検討する際には、そのゴールから外れていないか、いまいる会員の志向に合っているかどうかは、常に念頭に置かなければなりません。

こうした意義に照らして、あえて「やらない」ことを提案するのも、イーライフの担当コンサルタントの重要な役割と言えます。

ーC社のケース: 主力コンテンツのユーザー同士で回答し合うQ&AではC=70名, S=200名, A=2000名がアクションしてコミュニティを活性化。「純度」を守るためにポイント制廃止で会員減も、目先の数字より大切なこと。

2016年にスタートした食品加工大手メーカーC社の食関連コミュニティは、食事を毎日作る人、食べる人の双方を応援するというコンセプトのコミュニティです。コミュニティを立ち上げる際には、それがどんな関心軸の集まりなのか、その企業がやることにどういった必然性があるかといったことが大事になります。C社のコミュニティを立ち上げた当時、コンセプト領域の食ジャンルにここまで特化した企業コミュニティはまだありませんでした。主力コンテンツのひとつ「Q&A」は、食に関する悩みを投稿し、ユーザー同士で回答し合うというもの(時には事務局としての公式見解を回答することも)。会員間のやりとりそのものがコンテンツとなっており、それが呼び水となってオーディエンスが流入してきます。クリエイターが投稿した力作の食事の写真に対してサポーターがいいねをしたりコメントしたりできる「ギャラリーコンテンツ」には、毎月約70人のクリエイターが計500件ほどを投稿。それに対して約200人が6000件ほどのコメントを寄せ、さらに約2000人のオーディエンスがそれを閲覧しています。

これらはうまくいっているコンテンツの例ですが、逆にクローズしたコンテンツや仕組みもあります。主力コンテンツのひとつだった「掲示板」は、新型コロナウイルス感染症による不安が広まったタイミングで、コンセプトの「食」以外の話題の投稿も許容したことで、“純度”が下がってしまったことがきっかけで、廃止することに。また、各ユーザーがどのような形でコミュニティに貢献しているのかを第三者から見えやすくするため、ことし8月には、それまでのポイント制を廃止し、バッジ制に移行するテコ入れも行いました。

こうした改革に伴い、それまでポイント目当てでコメントをしていた人がコメントするのをピタリとやめてしまったり、退会してしまったりという、ネガティブな反応も数字として表れましたですが、コアなクリエイターは変わらず投稿し続けており、またそうしたクリエイターを純粋に応援する気持ちからコメントするサポーターも変わらず存在しています。改革から日が浅く、結論を出すには尚早ですが、コミュニティが本来あるべき姿に近づくための、痛みを伴う改革だったと捉えられるのではないかと思います。

ーD社のケース: 航空業界のコミュニティ運営?「日常的なブランド体験」の実現に向けて属性ではなくインタレストベースでのコミュニケーションに注力しながら、マイル以外の楽しみの提供に創意工夫を凝らす。

弊社がお手伝いしている企業コミュニティには、食品やコスメ商品など、一般消費財に関するものが多いのですが、中にはそうでないものもあります。大手航空会社D社のコミュニティはその代表例と言えます。飛行機には「乗って年に1、2回」という人も多く、一般消費財と比べてブランドを体験してもらえる機会が多くありません。「日常的にブランド体験してもらうには?」というのが、コミュニティ立ち上げの背景にあったD社の課題意識でした。コミュニティには、デジタルでありながらユーザー一人一人と密にコミュニケーションができ、なおかつユーザー同士の継続的なコミュニケーションも発生するという、SNSにはないメリットがあります。しかし、コミュニティ内で行われるユーザーのひとつひとつの行動がほかのユーザーに及ぼす影響は、SNSと比べて良くも悪くも非常に大きい。運営する企業の担当者には、それ相応の覚悟が求められます。

その点、D社はSNSとコミュニティを専属で見る担当者が5、6人いるという万全の体制。全投稿をチェックし、コメント返信からイベント企画、その運営まで手厚く取り組んでいます。
D社のコミュニティ立ち上げ時は、インスタグラム上でD社に関して頻繁に言及していたり、ニッチな旅を楽しんでいたりする人を中心に、200人に声をかけるところからスタートしました。その中でも、コミュニティ活動を続けてくれた人は「アンバサダー」として、いまもコミュニティのコアとして残っており、投稿の大部分を担ってくれています。「日常的にブランドを体験してもらう」というコミュニティの目的に照らせば、お金をたくさん払って飛行機に乗った人が報われる「マイル」などとは違う形で、ユーザーを承認してあげる必要があります。そのためD社のコミュニティでは、ユーザーのコミュニティ内での取り組みに応じてさまざまな種類のバッジを用意し、コレクションする楽しみを提供しています。

企業からすればどんなユーザーであっても大切な「お客さま」ですから、たとえば「現在の利用客に20代女性が少ない」といった課題意識があった場合、企業担当者は「20代女性を呼び込むには?」といった属性の視点でコミュニティ内の施策も考えることになります。しかし、コミュニティにおいては属性よりも興味関心こそが大事になります。属性の違いを超えて興味関心の共通した人たちが集まっているからこそ、コミュニティに熱が生まれるのです。イーライフはもともとインタレストベースの考え方を得意としてきた経緯があり、こうした細かな軌道修正をするのも、担当コンサルタントの仕事になります。

ーE社のケース: ユーザーのリクエストから生まれた商品、なんと2500超。ユーザー同士が刺激し合って磨かれたアイデアが商品として販売される、win-winの関係の仕組みづくりは、メール返信サポートから始まった。

最後に大手専門小売企業E社のコミュニティのようなアイディアプラットフォームをご紹介します。こちらは純粋な意味でのコミュニティとは異なりますが、ユーザーとの対話を商品づくりに生かすという意味で、コミュニティ的側面があります。イーライフとE社の関係は長く、もともとはメール返信サポートの仕組みを提供するところから始まりました。その延長上にあるのがE社のアイディアプラットフォームの取り組みです。弊社が提供するシステムを使ってユーザーから商品に関するリクエストを募り、それを受けた担当者が商品の見直しや改良に回す判断を下します。その後、商品部で検討を重ね、晴れて商品化されたものは同じページでユーザーに返答する、というものです。この仕組みを活用して生まれた商品は、これまでに2500点以上にも及びます。ユーザーからのリクエストを受けて作られた商品なので、当然反応も良く、このページから自社ECサイトに遷移する割合も非常に高くなっています

遷移先であるECサイトのレビュー投稿ページにも、弊社が提供するシステムが使われています。レビュー機能自体はそれ以前からあったのですが、投稿に対して与えられるマイル目的の短文レビューが多く、購入判断の材料として機能していませんでした。そこで、新システム導入に合わせてマイルを廃止。同時に、E社の商品に関してSNSで熱心に投稿している人たちに声をかけ、レビューの投稿をお願いしたところ(インセンティブはなし)、快く引き受けてくださり、最初の火を灯すことに成功しました。

現在、このページには質・量ともに十分なレビューが集まっていますが、投稿されるコメントの3分の1が商品に対する要望となっており、これもデータとしてまとめて商品開発に生かしています。世界の人々に「感じ良いくらし」を提案することを理念とするE社としては、星5の商品を増やすことより、星1の商品を減らしたい。そのため、あの手この手を使ってユーザーからの要望に耳を傾けることが非常に重要になるのです。アイディアプラットフォームのリクエスト投稿には、「良いね」ボタンを押すことで「私もそう思う」という共感を示したり、コメントすることで追加でリクエストしたりもできます。そうやってユーザー同士が刺激し合うことで、リクエストが増える。その分、E社としては商品改善に活かせる新しい視点を得られますし、ユーザーとしても欲しい商品が手に入る。まさにwin-winの関係を生むこうした仕組みは、非常にコミュニティっぽい部分と言えると思います。

企業の抱える課題に応じてスクラッチでコミュニティを設計する、イーライフのコンサルタント

イーライフではこのように、多種多様な課題を抱えた数多くの企業のコミュニティ運営をお手伝いしています。抱えた課題に応じてソリューションも異なるため、毎回スクラッチでコミュニティを設計することになります。

それができている背景には、SOHOワーカーの存在があります。約100人体制で、各コミュニティで日々行われている投稿のすべてをチェック。分析結果をもとにメール返信するなど、きめ細かな作業を担ってくれています。さらに、現在はコンサルタントとして前に立ち、クライアントとやりとりをする社員の多くも、もともとはSOHOワーカーからスタートして正社員になっています。それゆえ、コミュニティ運営のなんたるか、各コミュニティの特徴などを知り尽くしている存在なのです。だからこそ、企業の痒い所に手が届くコミュニティ運営ができていると、私たちは考えています。

 

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