インド市場の主戦場はティア2都市へ ― 成長する消費者とビジネスチャンス

インドは今、都市・地方を問わず消費の地殻変動が進行中。
25年以上、数多くの著名企業の国内・グローバルマーケティングを支援してきたイーライフは、日系パートナー企業様がインド進出の第一歩を確実に踏み出せるよう、現地生活者の視点を丁寧に拾いながら、手探りの第一歩を支援します。

本コラムでは、インドに精通した4名が、それぞれの視点から現地の最新事情や気づきを発信していきます。多様な切り口で、変化の真っただ中にあるインドの“今”をお届けしてまいります。
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はじめに

こんにちは。Geetha Anandです。
これまでインドの経済成長は、ムンバイ、デリー、バンガロール、チェンナイといった大都市圏に集中してきました。ところが現在、インドール(Indore)、コインバトール(Coimbatore)、ラクナウ(Lucknow)、ブバネーシュワル(Bhubaneswar)、スーラト(Surat)などのティア2都市(大都市に次ぐ、急成長中の地方中核都市)が新たな成長拠点として浮上しています。ここでは、より多くの産業投資が行われ、インフラは整備され、人々は教育水準を高め、家計はこれまで以上に購買力を持つようになっています。

重要な点は、これらの都市が大都市に依存する“周辺都市”ではなく、自立した成長拠点になっていることです。独自の地域経済があり、若くテクノロジーに精通した消費者が育ち、地元ブランドや新しいアイデアに触れる機会も増えています。手頃な価格でインターネットにアクセスできるようになったことで、人々は毎日のように新しい商品をオンラインで発見し、ソーシャルメディアの影響を受けて消費行動を決定しています。

ティア2都市の真の強みは、ビジネスにとっての「余白」にあります。競争はまだ少なく、運営コストは手頃で、消費者は新しいブランドやサービスを受け入れる柔軟さを持っています。地域のニーズに合わせて事業を展開できる企業にとって、ティア2都市は「市場が混み合う前」に信頼とロイヤルティを築く絶好のチャンスなのです。

デジタル・インディアを支える地方都市

スマートフォンの普及と低価格データ通信により、インド全体でインターネット利用が日常化しました。現在では、インドのオンライン消費者の半数以上が大都市圏以外から生まれています[*1]

こうした背景のもと、EC、OTTエンタメ(サブスクリプション動画配信等)、フィンテック、さらにはプレミアムD2Cブランドまでもがティア2都市から強い需要を獲得。住民は「モバイルファースト世代」として、自分の言語でコンテンツを楽しみ、地元インフルエンサーをフォローし、ライフスタイルに合う新しいアプリやサービスを試すことに積極的です。

彼らが求めているのは、ムンバイやデリーと同じ選択肢、体験、品質です。新しいブランドを探索し、買い物頻度を増やし、食料品からガジェットまであらゆるものをデジタルプラットフォームで購入しています。ブランドがこうした消費者に早くからアプローチし、適切な商品、価格、地域言語でのコミュニケーションを提供できれば、長期的なロイヤルティを勝ち取れるでしょう。

所得上昇と消費スタイルの変化

ティア2都市の経済成長を推進しているのは、産業拡大、IT部門の地方分散、不動産開発、教育水準の向上です。

家計所得が上昇したことで、家庭はより高い生活水準やプレミアム商品、国際的な体験を求めるようになりました。「憧れ消費」はもはや大都市だけの現象ではありません。しかも、ティア2都市の消費者は選択肢が限られているため、ブランドへのロイヤルティが高く、獲得コストが低いにもかかわらず定着率が高いという特徴があります。

地域言語が信頼をつくる

さらに以前の記事でも述べた通り、インドのインターネットユーザーの7割以上は母語でのコンテンツを好むことがわかっています[*2]。英語主体のアプローチよりも、地域言語を活用したプラットフォームやアプリ、キャンペーンの方が圧倒的に効果的です。

パッケージや広告、カスタマーサポートなどを地域言語にローカライズすることで、ブランドは消費者からの信頼を得ることができ、スピーディな定着につながります。口コミが依然として影響力を持つ都市では、言語対応は「戦術」ではなく「必須条件」なのです。

ソーシャルメディアと地域インフルエンサーの影響

ティア2都市のインフルエンサーは、全国的な有名人にはない「親近感」を持っています。彼らは同じ方言を話し、同じ文化を共有し、同じ生活スタイルを送っているため、消費者の信頼を獲得しやすいのです。都市ごとに独自の文化を持つインドならではの特徴と言えるでしょう。

その結果、ローカルインフルエンサーの推薦はより説得力を持ちます。企業にとっては、地域のクリエイターやマイクロインフルエンサーと協業することが、ブランド受容を加速させ、従来型の広告よりも早く忠実な顧客基盤を築く近道となります。

競争の少ないブルーオーシャン

大手ブランドの多くはいまだにティア2都市を「二次市場」として扱っています。これは中小企業(MSME)やスタートアップ、海外進出企業にとって大きなチャンスです。

実際、ティア2都市はインド全体のMSMEの51%を占めています[*3]。不動産は安価で、現地パートナーの獲得は容易。同じ文化的背景を持つローカルインフルエンサーは信頼獲得に繋がりやすい。早期に進出すれば、競争の少なさを活かして長期的な関係を築けます。

さらに、オフィスやマーケティング費用も低く、豊富な人材プールが存在するため、大都市に比べて資金的負担が少なく、事業の実験や拡大がしやすい環境です。

成長が著しい産業分野[*4]

ティア2都市ではさまざまな産業で成長が見られます。

  • 小売・Eコマース:ファッション、電子機器、ライフスタイル商品がオンラインで高い需要
  • 食品・FMCG:加工食品、健康補助食品、プレミアム家庭用品の人気が上昇中
  • 教育・Edtech:家庭が子どものオンライン学習やスキル開発に積極投資
  • 医療・ヘルスケア:遠隔医療やウェルネス商品など、質の高いサービスの需要が増加
  • テクノロジー・スタートアップ:コワーキングスペースやITハブ、地域スタートアップが拡大

インフラと政策が後押し

インド政府は、地方都市の成長を後押しするためにさまざまな政策を進めています。たとえば、「Digital India」(全国的なデジタル化推進)、「Smart Cities Mission」(都市インフラの近代化)、「Startup India」(起業支援策)などです。

これらの取り組みによって、ティア2都市でもインターネットやデジタル決済が普及し、道路・空港・地下鉄などの交通インフラが急速に整備されています。従来は大都市に集中していた利便性が地方にも広がったことで、企業が新規に進出しやすくなり、消費者も最新のサービスを受け入れやすい環境が整いつつあります。

インドの成長は大都市を超えて広がる

今後10年でティア2都市の台頭は、企業がインド市場をどう見るかを大きく変えるでしょう。もはや「二次市場」ではなく、成長のメインステージです。参入コストの低さ、拡大する中間層、新しい製品やサービスを試したい消費者。これらの条件がそろったティア2都市は、大都市では得られないチャンスを企業に提供します。

ティア2都市イメージ

消費者のオープンさと若者の力

ティア2都市の消費者は、新しいアイデアに積極的です。オンラインショッピング、UPI決済、グローバルブランドの利用などをためらわず受け入れます。

特に若年層は、野心的でテクノロジーに親しんでおり、製品やサービスだけでなく、グローバルブランドや教育、現代的ライフスタイルを追い求めています。彼らは新しいプラットフォームや決済方法に素早く適応し、長期的に見ても市場成長の原動力となります。

現場の声

コインバトール在住の主婦、シャラダ・ナンタ・クマールさんはこう語ります。

「コインバトールは昔から工学や製造業で有名で、今も多国籍企業を引き付けています。ロバート・ボッシュ(Robert Bosch GmbH)やアルストム(Alstom)、ベーカー・ヒューズ(Baker Hughes)(*)などが進出し、IT大手も拠点を構えています。地元スタートアップが利用するコワーキングスペースも増えています。デジタルサービスの利用は生活の一部になり、AmazonやFlipkart、Swiggy、Zomato、Porter (*)を日常的に使っています。教育面でもIBカリキュラム(*)の学生たちがオンライン家庭教師を受けており、世界基準の学びが自然に受け入れられています。」

*ロバート・ボッシュ=自動車部品大手、アルストム=鉄道インフラ大手、ベーカー・ヒューズ=エネルギー機器大手。いずれも世界的企業で、ティア2都市にも拠点を置いている
*Flipkart=Amazon型総合EC、Swiggy & Zomato=Uber Eats型のフードデリバリー、Porter=Grab Expressのような都市型配送サービス
*IB〈International Baccalaureate〉カリキュラム=国際大学入学資格に直結する教育課程。インドでは大都市だけでなく地方都市でも導入が進んでいる。

まとめ:インド市場で成功するために

インドの次なる成長を牽引するのは、ティア2都市です。所得の上昇、インフラ整備、デジタル普及を背景に、消費者は若く、意欲的で、新しいサービスを積極的に受け入れています。

企業に求められるのは、現地ニーズへの対応、地域言語での発信、ローカルパートナーとの連携です。初期コストは低く、競争も限定的。大都市よりも顧客ロイヤルティを築きやすい環境があります。

大都市での競争に後れを取る前に、ティア2都市での存在感を確立することが、インド市場での持続的成長を左右するでしょう。

さらに詳しい事例のご案内

本稿ではインドのティア2都市に関する概要を示しましたが、貴社の商品カテゴリや事業目的に即した具体的な分析や事例をご提供可能です。詳細につきましては、個別にご案内いたしますので、ぜひお問い合わせください。

提供可能な事例内容の一例

  • 都市別の人口規模・所得水準・消費分野の特徴
  • Flipkart・Swiggy・Zomatoなど主要プラットフォームでの販売戦略・広告手法
  • 地域インフルエンサー活用事例と従来型広告の効果比較
  • 政策支援(Digital India / Smart Cities Mission)がもたらす参入メリット
  • 消費財(食品・化粧品・日用品)における日本ブランドの受容性
  • 都市別にみた競合状況および市場の飽和度
  • オフライン(モール・小売店)とオンラインのチャネル使い分け実態

[*1]
https://www.indianretailer.com/article/technology-e-commerce/digital-trends/indias-summer-e-commerce-boom-2025-tier-iii-cities
IndianRetailer.com & Retailer Media, Jul 04, 2025
India’s Summer E-commerce Boom 2025: Tier III Cities Lead the Charge, Lifestyle Categories Surge

[*2]
https://qz.com/india/972844/indias-internet-users-have-more-faith-in-content-thats-not-in-english-study-says
Quartz – Tech and Innovation, July 21, 2022
India’s internet users have more faith in content that’s not in English

[*3]
https://www.investindia.gov.in/team-india-blogs/rise-indias-tier-2-and-3-cities-investment-hubs
Invest India, June 02, 2025
The Rise Of India’s Tier 2 And 3 Cities As Investment Hubs

[*4]
https://ficci.in/public/storage/SPDocument/24030/96dnNn2uqeYtundPb3PZoa8MZy8b8Y4g1Pjj8Knl.pdf
Deloitte, FICCI, October 2024
Spurring growth in FMCG, retail and e-commerce sectors in India

執筆者プロフィール

坂元思月
インディアナ大学ブルーミントン校を卒業後、一橋大学大学院にて修士課程を修了。 15年以上にわたりマーケティング分野に従事し、主として国内・海外企業のクロスボーダーおよびグローバル案件を担当。現在は株式会社イーライフのシンガポール支社に所属。
Abhilash Anand
RV大学を卒業後、ニューヨーク大学にて修士号を取得。 その後、デジタルエンジニアおよびデータサイエンティストとして5年間従事し、現在は株式会社イーライフの日本本社に所属。
Thangappan Anand
電力およびオートメーション業界で32年以上のキャリアを持つ。制御・リレーパネル、変電所オートメーションシステム、保護リレーといった技術分野に精通する一方、営業・マーケティングから試運転、保守サービスまで幅広いビジネス領域を経験。ABB、GE、シーメンスなど世界的な大手企業で要職を歴任し、入札、顧客エンゲージメント、市場拡大戦略に関する深い知見を培ってきた。現在は、株式会社イーライフ(シンガポール支社)のインドパートナー企業、e-Kaimono Private Limitedにて取締役を務める。
Geetha Anand
10年以上にわたり、インドのバンガロールで展開するシーメンス・インフォメーション・システムズ社やタリー・ソリューションズ社にて実務経験を積む。現在は、株式会社イーライフのシンガポール支社のインドパートナー企業である、e-Kaimono Private Limitedにて取締役を務める。

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