日本の中小企業が低リスクで始めるインド進出の第一歩──現地テスト販売戦略~UPIを活用すれば、日本の中小企業でもインド市場参入がより簡単に~

インドは今、都市・地方を問わず消費の地殻変動が進行中。
25年以上、数多くの著名企業の国内・グローバルマーケティングを支援してきたイーライフは、日系パートナー企業様がインド進出の第一歩を確実に踏み出せるよう、現地生活者の視点を丁寧に拾いながら、手探りの第一歩を支援します。

本コラムでは、インドに精通した4名が、それぞれの視点から現地の最新事情や気づきを発信していきます。多様な切り口で、変化の真っただ中にあるインドの“今”をお届けしてまいります。
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はじめに

こんにちは。Geetha Anandです。
インドは、膨大な人口による巨大な消費市場、ビジネスに適した環境、そして政府の積極的な支援策により、海外投資家にとって魅力的な投資先として注目されています。しかし、日本の中小企業(SME)が新たにインド市場に参入しようとする場合、高額な初期投資や長期的な準備が必要であることから、参入のハードルは高いのが現実です。

そうした中で注目されているのが、インドで急速に普及しているデジタル決済プラットフォーム「UPI(Unified Payments Interface)」です。UPIを活用すれば、実際の市場環境で製品をテスト販売できるだけでなく、コストを抑えつつスピーディに事業を立ち上げることができます。リスクを最小限に抑えながら、商品やビジネスモデルの適応性を見極めることができる点で、UPIは日本の中小企業にとってインド市場参入の有力な手段となり得ます。

※UPI(Unified Payments Interface)はインドで広く使われている即時決済システムです。詳細は過去記事をご確認ください。

UPIで実現する、「まず販売して反応を見る」テストマーケティング

日本国内で新商品をテスト販売するには、棚スペースの確保、POSシステムの導入、スタッフの配置、さらには複雑な決済環境の整備など、多くの準備と高額なコストが必要です。これに対し、インドのUPIを活用すれば、スマートフォンとQRコード、そして小さな販売スペースさえあれば、すぐに販売を開始できます。支払いの受け取りも迅速かつ簡単です。

このような簡易な販売形態は、企業が「まず販売して、消費者の反応を見る」スタイルのテストマーケティングを行う上で非常に効果的です。さらに、UPIはオンライン・モバイルアプリ・対面販売など複数のチャネルと連携できるため、さまざまな顧客接点を通じて柔軟なマーケティングが可能です。

展示会・モール・ポップアップなどを活用したオフライン展示

インド市場への参入を検討している日本の中小企業は、モールでのポップアップショップ(モールや駅などに短期間だけ設置される販売ブース)、展示会、地下鉄の駅、商業施設での短期販売イベントなど、実際に消費者と接点を持てる場で自社製品を紹介することができます。これらの場で商品を展示し、販売と同時にUPIによる決済を受け付けることで、即時に販売データや顧客の反応、購買行動といった貴重な情報を取得できます。

こうした情報は、製品が正式に市場投入できるか、または改良が必要かどうかの判断材料となります。価格が高すぎると感じられれば、品質を維持しつつ価格を調整するなどの対策も講じやすくなります。

オンライン上での商品紹介と、UPIによるテスト販売

オンラインチャネルを活用して商品を紹介することも有効です。多くのECサイトやSNS広告プラットフォームはUPIと連携しており、商品紹介ページに決済リンクを設けることで、消費者はその場でスムーズに購入できます。

SNS、メールマーケティング、Webサイト、アプリなど、ターゲットに応じたチャネルを選定し、特に顧客が多く集まるエリアにマーケティングリソースを集中させることがポイントです。UPIの活用により、販売後のフィードバック収集や、顧客行動の分析も簡単に行えるようになります。

リアルタイムデータに基づく迅速な意思決定

UPI決済では、取引の日時、金額、支払者の情報など、詳細な取引データがリアルタイムで取得できます。企業は、UPIと連携したアプリやメッセージ機能を活用することで、顧客からのフィードバックを迅速に収集したり、購入後のサポートを提供したりすることができます。

すべての取引履歴は記録されており、成功・失敗の情報も含めて検索・分析が可能です。これにより、取引量の傾向や決済失敗の要因を特定し、改善策を検討することができます。こうしたデータをもとに、顧客の購買傾向や嗜好を把握し、テストマーケティングの精度を高めることができます。

短期・小規模の販売であっても、「売れる時間帯」「平均購入単価」などの有益な情報が得られます。新市場への進出を目指す中小企業にとって、こうした知見は意思決定を支える重要な資産となります。

取引完了画面

取引に関する詳細情報がログとして保存されます。

インドでは「前払い×柔軟対応」でリスクを抑えた事業運営が可能

インドでは、UPIを通じた「前払い(プリペイド)」文化が浸透しており、消費者は安心して代金を先払いする傾向があります。取引もリアルタイムで確認できるため、信頼性が高いのです。

これにより、日本の中小企業でも在庫を持たずに、受注・決済を先に行い、注文が確定してから製造・仕入れを行う柔軟な運営が可能になります。このモデルは、在庫リスクや廃棄ロス、保管コストを大幅に削減できるほか、資金面のリスクも抑えられるため、慎重な市場参入戦略に非常に適しています。

新しいもの好きなインド消費者──ブランド力がなくても勝負できる

インドの消費者は新しいものに対して好奇心が強く、実際に試してみようとする姿勢があります。この特性とUPIによるスムーズな決済体験が相まって、外国ブランドにとっても市場参入のチャンスは広がっています。

SNSやレビュー、インフルエンサーの影響力も強いため、知名度の低い中小企業であっても、ユニークで魅力的な商品があれば、十分に注目を集めることが可能です。

【導入事例】UPI導入で効率化を実現した小売店「Butterfly Kids and Ladies」

・店舗名:Butterfly Kids and Ladies
・所在地:カルナータカ州マイソール(インドの地方都市)
・業種:既製衣料の小売店
・顧客数:15,000人以上
・来店数:1日あたり30〜40人

同店は手頃でトレンド感のある子ども・女性向け衣料を扱い、地域で高い人気を誇っています。人気とともに、ピーク時のレジの混雑や現金の扱い、クレジットカードの処理時間などが課題になっていました。

解決策:UPI導入(2022年)
・現金のやりとりやお釣りのやりとりが不要になり、レジ処理が迅速に
・顧客の65%以上がUPIを利用するようになり、満足度が向上
・現金管理にかかる人的ミスや盗難リスクも低減
・クレジットカードと異なり、UPIは手数料がゼロまたは非常に低いため、店舗の利益率が改善

オーナーのコメント:
「UPI導入後、65%以上のお客様が利用してくれるようになり、現金やカードを持ち歩かなくてもよく、会計もスムーズになりました。以前よりも多くのお客様にストレスなく対応できるようになり、会計の遅れでお客様が離れてしまう心配も減りました。」

結論:UPIは日本の中小企業にとって、インド進出の現実的な第一歩

UPIは、日本の中小企業にとって、インド市場にリスクを抑えて参入できる実用的な手段です。使いやすさ、導入コストの低さ、そしてリアルタイムでの顧客フィードバックの取得が可能な点から、新商品や新サービスのテストに最適です。

大がかりな法人設立や物流体制の構築に先立って、小規模かつ短期間での市場テストを行い、消費者の反応を確認しながら戦略を練ることができます。インドのデジタル決済が日常的に浸透している今、日本の中小企業にとってUPIは、「まずは小さく始めて、確かな手応えを得ながら拡大する」というスマートな海外展開の鍵となるでしょう。

 

執筆者プロフィール

坂元思月
インディアナ大学ブルーミントン校を卒業後、一橋大学大学院にて修士課程を修了。 15年以上にわたりマーケティング分野に従事し、主として国内・海外企業のクロスボーダーおよびグローバル案件を担当。現在は株式会社イーライフのシンガポール支社に所属。
Abhilash Anand
RV大学を卒業後、ニューヨーク大学にて修士号を取得。 その後、デジタルエンジニアおよびデータサイエンティストとして5年間従事し、現在は株式会社イーライフの日本本社に所属。
Thangappan Anand
電力およびオートメーション業界で32年以上のキャリアを持つ。制御・リレーパネル、変電所オートメーションシステム、保護リレーといった技術分野に精通する一方、営業・マーケティングから試運転、保守サービスまで幅広いビジネス領域を経験。ABB、GE、シーメンスなど世界的な大手企業で要職を歴任し、入札、顧客エンゲージメント、市場拡大戦略に関する深い知見を培ってきた。現在は、株式会社イーライフ(シンガポール支社)のインドパートナー企業、e-Kaimono Private Limitedにて取締役を務める。
Geetha Anand
10年以上にわたり、インドのバンガロールで展開するシーメンス・インフォメーション・システムズ社やタリー・ソリューションズ社にて実務経験を積む。現在は、株式会社イーライフのシンガポール支社のインドパートナー企業である、e-Kaimono Private Limitedにて取締役を務める。

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